高和法律事務所

:0532-(53)-2272
FAX:0532-(53)-2535
ホームページについて|サイトマップ
   
ホーム弁護士近思雑感>04:「被告」と「被告人」

「被告」と「被告人」

 裁判「沙汰」といわれるように、裁判にかかわること自体を不名誉と感 じる風潮が、われわれの意識の底にありそうです。しかも、裁判手続では、法 律分野に特有の用語がもちいられたり、あるいは日常用語が特殊な用法でも ちいられたりするため、無用の誤解を生じさせやすいものです。
 過日、知人である乙が裁判所から送られてきた訴状という書面を当事務所 に持参しました。乙の隣地所有者である甲が、乙を相手として、土地境界確 定の裁判を起こしてきたのです。訴状には、甲の肩書は「原告」とされ、乙は 「被告」とされています。被告という「汚名」を着せられた乙は憤懣やるかた ない様子です。なぜ、なにも悪いことをしていない自分が被告呼ばわりされ なければならないのか、と。これは刑事裁判で裁かれる人物が「被告人」と 呼ばれることとの混同から生じる誤解です。境界確定など民事裁判では、原 告が裁判を起こしたひとという意味しかもたないのと同じく、「被告」は裁判 を起こされたひと−つまり、原告の相手方という意味しかもちません。報道 機関が、刑事裁判の被告人を、一般的に「○○被告」と呼び習わすことも誤 解の要因をなしているのでしょうが、そもそも「被告」と「被告人」は用語 として余りに似ていて、それらを峻別せよというのが所詮むりな話なのかも しれません。
 「被告」についての説明をしぶしぶながらも納得した乙は、ついで「請求 の趣旨」の最後に記載してある文章に怒りをぶつけます。そこには、「訴訟費 用は被告の負担とする」と書いてあるからです。みれば、甲は代理人として 弁護士を立てています。なぜ、甲が自分のつごうで依頼した弁護士費用まで、 こちらで面倒をみる必要があるのか、というのが乙の率直な疑問でした。こ こで「請求の趣旨」というのは、甲の乙に対する請求内容を明示したもので、 裁判所が言い渡す判決の主文に対応するものです。ようするに、甲は請求の 趣旨記載の判決を裁判所に対しもとめているわけです。ですから、当然のよ うに「訴訟費用は被告の負担とする」という判決が言い渡されるわけではあ りません。乙が裁判で敗訴した場合―つまり、甲の請求が裁判所にみとめら れた場合に、訴訟費用を乙が負担することとなります。しかも、この訴訟費 用は、裁判を起こす際に原告が裁判所におさめる印紙および郵便切手代など をふくむものの、原告甲の弁護士費用は原則としてふくまれていません。交 通事故等の損害賠償事件(不法行為といいます)など限られた事件のみ、原 告は弁護士費用を本来の請求額に上積みして請求できることになっています。 ですから、かりに土地境界確定の裁判で乙が敗訴したとしても、甲の弁護士 費用は甲が負担するのであって、乙に転嫁することはできません。最近話題 となった裁判費用の敗訴者負担制度は、不法行為にかぎらず、裁判で敗訴し た側に勝訴者の弁護士費用まで負担させようとする制度でしたが、世論の反 対が強く廃案となりました。
 訴訟費用の負担についての説明を聞いてほっとした様子の乙は、さらに訴 状の理由づけを記載した部分(「請求原因」といいます)を読んで、ふたたび 立腹しはじめます。なぜ、このように事実をねじまげて記載することが許さ れるのか、そんな内容がでたらめな書面を裁判所が鵜呑みにして送りつけて くるとはけしからん、と。しかし、訴状には原告甲の言い分が記載されてい るだけで、それを裁判所がみとめているとか、あるいはそれを証拠として扱 うというものではないのです。訴状はあくまで原告の「言い分書面」であっ て、その後乙が提出することになる答弁書あるいは準備書面などと同様、証 拠となるものではありません。ですから、裁判所がそのような書面を根拠と して判決を言い渡すことはありえませんし、そのかわり、かりに事実と違う ことが書かれていたとしても、「偽証」として処罰されることもないのです。
 以上の説明で、乙はやっと一息ついた様子で、差し出された煎茶をのみ、 おもむろに紛争の事実経過を語りはじめました。訴状に関しての疑問が解消 されたとはいえ、そのときから「降りかかった火の粉を払う」という乙の地 道で根気の要る作業が開始されたのです。

高和 直司

 
Copyright:(C)2004,Kowa Law Office,All rights reserved.